現代の医療において、麻酔は手術を安全におこなうために必要不可欠な技術です。
そして、その麻酔を専門に扱うのが麻酔科医の仕事です。
この記事では、麻酔科医の役割や詳しい仕事内容、働き方の特徴などを紹介します。
麻酔科医を目指そうと考えている方や、麻酔科医の仕事に興味がある方はぜひ参考にしてください。
切開や切除、縫合などの手術は、大きな痛みとストレスをともないます。
そこで麻酔で痛みを感じなくすることで、手術の安全を守り、患者さんの心身の負担を和らげるのが麻酔科医の仕事です。
麻酔には、主に部分的に作用する局所麻酔と、脳を麻痺させることで体全体に麻酔をかける全身麻酔があります。
麻酔科医は、手術の部位や内容、予定時間、患者の健康状態などを考慮して、これらを駆使した最適な麻酔方法を提案します。
麻酔科医の主な役割は、手術中の麻酔管理です。
手術中の麻酔管理には、大きく分けて循環管理・呼吸管理・疼痛管理の3つがあります。
麻酔による鎮静・鎮痛をおこなうと、血圧のコントロールがうまくできなくなったり、血液の循環量が減少したりすることがあります。
また、麻酔が浅い、または深すぎるなど効き具合によって低血圧や高血圧になることもあります。
このため麻酔科医は手術中、患者さんの血圧や心拍数などを常に観察し、異常があれば適切な処置を行います。
全身麻酔では、呼吸するための筋肉の働きが衰えるため、自発呼吸ができなくなります。
このため全身麻酔の場合、患者さんに気管挿入し、人工呼吸器を装着することで、十分な酸素が取り込めるようにするのも麻酔科医の仕事です。
疼痛管理とは、手術中や手術後における痛みをコントロールすることです。
痛みが強い場合は痛みを抑制できるように、反対に痛みがそれほど強くない場合は余分に投与しないよう、麻酔薬や鎮痛薬の量を調整します。
手術中の麻酔管理だけでなく、手術前・手術後の患者さんの健康状態を管理するのも麻酔科医の仕事です。
そこで、ここからは手術前・手術中・手術後3つに分けて、麻酔科医の仕事内容を解説します。
手術の部位や内容、予定時間や患者さんの健康状態に適した種類、適した量の麻酔を用意します。
そのためには持病や現在使用している薬、体質などについて術前診察するほか、場合によっては聴診、打診、触診なども必要です。
適切な麻酔方法が決まったら、患者さんやそのご家族に説明します。
麻酔薬を投与し、手術の進行に合わせて麻酔薬や鎮痛薬の量を調整します。
また、常に患者の血圧や心拍数を管理する循環管理や、十分に酸素を取り込めているか確認する呼吸管理を行い、手術の安全をサポートします。
手術直後や手術翌日に術後回診を行い、痛みや副作用をチェックします。
なるべく快適な術後を過ごせるよう、痛みの程度に合わせて鎮痛薬の種類や量を調節します。
適切な疼痛コントロールは、早期離床・早期回復にもつながります。
総合病院に勤務する常勤の麻酔科医の1日のスケジュール例は以下のとおりです。
7:00~:使用予定の麻酔と器具の準備
9:00~:手術開始
12:00~:交代・休憩
15:00~:術前回診・術後回診
17:00~:院内カンファレンス
18:00~ :業務終了
手術は朝一番に行われることも多いです。
このため麻酔科医は、手術がある日はそれに合わせて早く出勤し、使用予定の麻酔や器具を準備します。
また、長時間に及ぶ手術の場合は、他の麻酔科医と交代して休憩を取るのが一般的です。
手術の予定がない日は、7:30など手術がある日よりも遅めの出勤となります。
朝の院内カンファレンスに参加し、日中は明日手術予定の患者さんの術前回診や、手術が終わった患者さんの術後回診などを行います。
麻酔科医になるには、まず6年制の医科大学や大学医学部などを卒業し、医師国家試験に合格する必要があります。
医師免許取得後は最低2年間の初期臨床研修を受け、その後さらに麻酔科の専門研修を約2年間受講。
研修終了後、厚生労働省に麻酔科標榜医の申請をし、許可されることで麻酔科医として働くことができます。
麻酔は、患者さんが手術を受ける上でなくてはならない医療です。
このため麻酔科医は、麻酔科のある医療機関や総合病院、大学病院に限らず、整形外科や脳血管外科など手術を行う診療科であればどこでも活躍できます。
さらにがん患者の緩和ケアや、痛みに対する治療やケアを専門とするペインクリニックも麻酔科医の就職先の一つです。
また、日本では、患者の集中治療や高度管理をおこなうICU(集中治療室)で活躍する集中治療医の多くが麻酔科出身といわれています。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、麻酔科医の平均年収は、1,335万2,000円です。
診療科目 | 平均年収(万円) |
内科 | 1247.4 |
外科 | 1374.2 |
整形外科 | 1289.9 |
脳神経外科 | 1480.3 |
小児科 | 1220.5 |
産科・婦人科 | 1466.3 |
呼吸器科・消化器科・循環器外科 | 1267.2 |
精神科 | 1230.2 |
眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1078.7 |
救急科 | 1215.3 |
麻酔科 | 1335.2 |
放射線科 | 1103.3 |
その他 | 1171.5 |
引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」p30
他の診療科と比較した場合、麻酔科医の年収は上位から4番目となるため、医師の中でも高い給与水準だといえるでしょう。
>>医師の平均年収の現実!高すぎる?中央値や最低収入など徹底解説
麻酔科医は、他の診療科目と比べて以下のような特徴があります。
現行の日本制度では、基本的に医師免許を持っていれば内科や外科、小児科など自由に診療科目の標榜(看板)を掲げることが可能です。
ただし、麻酔科はその例外であり、麻酔科を標榜するためには医師免許に加えて麻酔科標榜医の資格を取らなければなりません。
このように麻酔科は、他の診療科目と比較して専門性が高いため、幅広い場所で活躍できる・様々な手術に関わるという特徴があります。
麻酔科医の主な働き方としては、総合病院などで勤務医として働くほか、麻酔科・ペインクリニックの開業などが挙げられます。
また、麻酔科医は需要に対してかなり人手が不足しており、麻酔科医が常駐していない病院も多いという現状があります。
このためフリーランスという他の科では珍しい働き方ができるのも麻酔科医の特徴です。
他の診療科と比べて女性医師が多いのも麻酔科の特徴の一つです。
厚生労働省の「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によれば、女医の数は約6万4,000人で、その割合は医師全体の21%。
それに対して麻酔科医は、女医が全体の39.6%と高い割合を占めています。
麻酔科医は、手術やICUでの対応など、患者の生命維持に関わる場面が多いです。
このため輸液管理や全身管理、疼痛コントロールなど麻酔科医として必要なスキルのほか、救急救命現場や集中治療で必要なスキルなど、幅広いスキルが求められます。
また、同じ症例でも患者さんが違えばとるべき処置も異なります。
このため患者さんのかすかな変化も見逃さない観察力、冷静な判断力、状況に応じて臨機応変に動ける対応力なども必要です。
麻酔科医は、数ある診療科のなかで専門性が高く、なおかつ幅広い手術に関わることから、様々な知識や技術を習得する必要があります、
このため勉強や情報収集が得意で、なおかつ向上心を持って学び続ける姿勢がある方に向いています。
また、麻酔科医は手術前からコツコツと準備をし、手術中も患者の血圧や心拍数、呼吸を常にチェックするなど、地道で細かい作業が多い職業です。
このため細やかなところに気を配り、地道に努力できることも重要な適性だといえるでしょう。
麻酔科医は需要に対して、かなり必要が人数が不足しているという現状があります。
実際、2019年度の「勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査報告書」では、「医師が不足している」「やや不足している」と答えた病院の42.3%が、麻酔科医の不足を訴えています。
このような深刻な人手不足を受け、ハードワークのイメージが強い麻酔科医も、近年は労働環境の改善が進んでいるところです。
さらに完全な売り手市場であり、今後もしばらくその状況は続くことが予想されるため、高い給与水準や転職による年収アップも期待できます。
こういった理由から、麻酔科は他の診療科からの転科先としてもおすすめです。
また、現在麻酔科医として勤務している場合は、職場を変えることでより良い労働環境や待遇で働ける可能性があるでしょう。
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転科・転職を検討している医師の方はぜひご活用ください。
現在の日本では、医師免許さえあれば自由に診療科を掲げられるという自由標榜制を採用しています。
そのなかで麻酔科医は、医師免許以外に「麻酔標榜医」という資格が必要な唯一の診療科です。
高い専門性が求められるぶん、さまざまな知識や技術を習得する必要がありますが、その需要は現在も高く、今後も長く続く見通しです。
そのほか医師のなかでも高い給与水準を誇り、幅広いフィールドで活躍できることから、これから診療科選びをする新人医師の方はもちろん、転科を考えている医師にとってもおすすめの診療科といえるでしょう。
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