2024.08.09

産業医になるには?資格を取るための4つの要件と手続き、必要なスキルについて

企業に勤める従業員の健康を守る「産業医」。現代のストレス社会においてニーズが高まりつつありますが、実際に産業医を目指す場合、資格の取得や手続きはどのように行うのでしょうか?

今回は産業医の目指し方や資格、必要なスキル、産業医のメリットやデメリットについて解説します。

産業医と医師の違いとは?

産業医の資格について解説する前に、改めて産業医と医師の違いについて知っておきましょう。

医師は病院やクリニックなどで患者に対して診断や治療をする役割であるのに対し、産業医は企業内でその従業員が働くことができる心身の状態かどうかを判断する役割となります。

通常、患者が復職できるかの判断も医師が行いますが、その患者の具体的な業務までを医師が把握しているわけではありません。そこで、企業に勤め職場環境や業務内容を理解している産業医が、「会社が求めるパフォーマンスで仕事に戻れる状態なのか」を判断します。

また、産業医はその企業に勤める従業員の健康状態や労働環境について、日頃からの指導やアドバイスも行います。

産業医医師
働き方企業医療機関(病院・クリニックなど)
対象者企業に勤める従業員医療機関を受診しにくる患者
仕事内容・従業員の健康状態や労働環境について指導やアドバイス
・従業員の労働可否判断
・診察
・検査
・治療など

産業医の資格を取るための4つの要件

産業医になるには、医師免許を取得した上で、次の4つの要件のうちどれかを満たす必要があると定められています。

産業医は、医師であって、以下のいずれかの要件を備えた者から選任しなければなりません。
(1)厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
(2)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
(3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
(4)大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「産業医について~その役割を知ってもらうために~」から引用

指定の研修を修了する

医師免許を取得した上で指定の研修を修了し、単位を満たすことで、産業医になることができるルートです。
指定されている研修は下記の2つです。

これらの研修で50単位以上のカリキュラムを修了していることが条件となります。研修は随時開催されており、日本医師会のホームページなどで確認することが可能です。

指定の大学が定める実習を履修する

産業医科大学など、産業医の養成課程が設置されている大学で実習を履修することで、産業医になることができるルートです。簡単にいうと、産業医科大学の医学部を卒業し、医師免許を取得するルートのことを指します。

このルートでは、医師免許を取得してすぐに産業医として活動できます。

労働衛生コンサルタント試験に合格する

労働衛生コンサルタントとは、その名の通り事業所の労働衛生の向上・指導を行う専門家のことで、国家資格の一つでもあります。医師免許を持っていれば受験資格を満たし、国家試験を受けることができます。

従業員の心身の健康を守るのが産業医の役割であるのに対し、労働衛生コンサルタントは職場環境の管理や指導も行わなければならないため、業務の幅と求められる知識が広くなります。

注意したいのが、労働衛生コンサルタントには「保健衛生」と「労働衛生工学」の2つの区分があります。このうち「保健衛生」で合格しなければ産業医として働くことはできません。

令和5年度の国家試験合格率は25.7%、過去数年も3割程度で推移しており、難易度の高い国家資格です。

労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、講師に就く、もしくはこれらの経験者である

大学で労働衛生に関する科目を担当する講師以上の現職者、もしくは経験者も産業医として活動する資格を得ることができます。労働衛生に関する科目の担当であれば、大学の種類は問いません。

産業医として働くために必要な手続き

要件を満たすだけでは産業医として働くことはできません。ここでは、産業医として働くために必要な手続きについてご紹介します。

指定の研修を修了した後

産業医学基礎研修」もしくは「産業医学基本講座」のどちらか50単位以上を修了した後は、産業医認定の申請手続きを進めていきましょう。

各都道府県の医師会窓口に、必要書類と審査・登録料の10,000円を提出します。具体的な申請方法は都道府県によって異なるため、各医師会へ事前に問い合わせておくことをおすすめします。
必要書類は以下の通りです。

<産業医認定の手続きに必要な書類>
●認定産業医新規申請書
●医師免許証の写(医師会員は不要)
●産業医学研修手帳(Ⅰ)(基礎研修50単位以上のカリキュラムを修了したことが証明されていること)、または産業医科大学産業医学基本講座修了認定書、産業医科大学産業医学基礎研修会集中講座修了認定書など  

参照:日本医師会「認定産業医の手引き
認定産業医新規申請書は、各都道府県の医師会に用意されているため事前の準備は不要です。

大学での履修を経た場合も、上記と同様の申請を行います。

労働安全コンサルタント試験の合格後

労働安全コンサルタントの国家試験に合格した後は、安全衛生技術試験協会で登録手続きを行います。

合格証の写しを添付したコンサルタント登録申請書に手数料の20,000円を添えて提出します。登録申請書は協会の窓口で受け取れることはもちろん、郵送での取り寄せや協会ホームページからのダウンロードも可能です。

参照:労働安全・労働衛生コンサルタントの登録申請(はじめて申請される方)

産業医に求められるスキル

医療分野の中でも少し色が異なる産業医。現場ではどのようなスキルが求められるのでしょうか?

十分な医学知識

産業医は一般的な医師と異なり診察や治療を行うことはありませんが、企業の従業員の健康相談などを受ける際には医学知識が必要になります。転職の条件として5年以上の臨床経験を提示している企業も少なくなく、現場での経験や知識が必要とされていることがわかります。

産業医としてスキルアップができるよう、研修も定期的に開催されています。研修ではタイムリーな内容も盛り込まれ、最新情報のキャッチアップに役立てることができたり、産業医同士のコミュニティに参加するきっかけになったりもします。

能動的に情報を取りにいく意識を常に持っておくことが、「求められる産業医」への近道となるでしょう。

カウンセリングスキル

診察・治療ができない産業医が従業員の心身の健康状態を把握するためには、カウンセリングが何よりも重要になります。こちらから一方的にアドバイスするばかりではなく、相談者の話に耳を傾けながら不調のサインを聞き逃さず、本来の悩みや不調を引き出せるような話し方や言葉選びを心がけなければなりません。

あくまでも産業医として、その企業で相談者が働けるかどうかを判断するため、現状を的確に判断するための傾聴スキルが求められるでしょう。

産業医として働くメリットとデメリット

企業に勤める従業員を守る役割として重要な産業医。実際に働くとなると、どのようなメリット・デメリットがあるか気になりますよね。ここでは産業医のメリットとデメリットについて解説します。

産業医のメリット

産業医が通常の医師と大きく異なる部分として、休日出勤やオンコール待機など、基本勤務時間以外の稼働がないというところ。これはワークライフバランスを保ちたい人にとって大きなメリットと言えるでしょう。

関連記事:医師がワークライフバランスを保つには?現状や課題、できることは

企業専属の産業医でも、週3〜4日の勤務が一般的であるため、プライベートな時間を大切にしたい人はもちろん、空き時間でスポット勤務を入れて収入アップを目指すことも可能です。

関連記事:フリーランス医師と常勤医師の違いとは?年収、メリット・デメリット、について

また、企業に就職する形になるので福利厚生が病院より充実している点もメリットとして挙げられるでしょう。

産業医のデメリット

産業医のデメリットとしてまず挙げられるのが、就職のしづらさ。産業医自体の求人がそもそも少なく、中でも企業専属の産業医は特に少なくなっています。また、1人の産業医がいくつもの企業を兼任しているというケースも。

また、一般的な医師とは違う医療知識や指導の仕方を学ばなければならないという点は、デメリットとまでは言えないもののハードルが高いと感じる人が多い部分でしょう。

産業医の将来性やニーズ

長時間労働や労働によるストレスが深刻化している現代ですが、近年では働き方改革が急激に進んでいます。その具体的な施策の中には産業医業務も存在し、ニーズは高まっていると言えるでしょう。

企業内での感染症拡大防止策やメンタルヘルスケアも産業医の役割であり、社会的な重要な役割です。

今はまだ数が多くなく通常の医師ほど認知度が高い職業ではありませんが、これからの日本では今以上に産業医が必要とされていく、と考えられます。

まとめ

産業医の資格を取得する難易度は決して低くはないものの、これまで医師として培ってきた知識や経験がある場合は十分にそれを活かすことができる職業です。

働く人の心身の健康を支えるポジションということから、企業にとっては欠かせない存在です。また、産業医の働きによって従業員の病気を早期発見・早期治療できれば、従業員の健康を守りながらも企業の生産性を維持することにも繋がります。

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