患者の心配や同僚への負担、キャリア形成への影響を考えると、子育て産休・育休制度の取得や子育てそのものを悩む医師も多くいます。しかし、近年では「産後パパ育休」を新設するなど、国全体で産休・育休制度を見直す動きがみられており、男性医師の育休取得率も急激に上昇しています。
今回は、医師の産休・育休取得に関して、取得可能な制度や取得率などを紹介します。医師が育児と仕事を両立させるためのコツについても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
医師の育児休暇取得の難易度は、男性医師・女性医師ともに職場の環境によって異なります。法律上では育児休暇の取得はもちろん可能です。2022年10月から「産後パパ育休」が施行されているように、男性の育児休業取得促進を図る動きもみられています。しかし、実際の現場では、医療スタッフからの理解や人材不足の問題などが生じるため、職場の環境によっては育児休暇を取りづらい環境もあります。
また、職場の環境による問題だけでなく、患者やキャリア形成のことを考えると長期休暇を取りづらいと感じている医師も多くいます。医師の育児休暇の難易度を下げるには、育児休暇によるキャリアや評価への影響を減らす取り組みが求められます。
実際に働く医師の産休・育休の取得率はどのくらいなのでしょうか?
産前・産後休暇の取得率、女性と男性の育児休暇の取得率について解説します。
日本医師会の「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」によると、2016年度までに出産した女性医師の産前・産後休暇の取得率は86.1%でした。そのうち、完全に取得した方は77.7%、一部取得した方は22.3%という結果が出ています。
2008年に同様の調査をおこなった際の結果に比べ、産前・産後休暇の取得率は6%、完全に取得した割合は約3%増加しています。
同調査によると、2016年までに出産経験のある女性医師の育休取得率は59.1%でした。これに比べ、厚生労働省の「育児・介護休業法の改正について」
によると、同年の女性の育休取得率は81.8%であり、全体の取得率に比べて女性医師の取得率は低い傾向にあることがわかります。
女性医師が育児休暇を取得しなかった理由として、「制度がなかった」「代わりの医師がいなかった」「取得しづらい雰囲気だったから」という理由が多くみられました。
しかし、その一方で「キャリアや患者のために勤務を希望したから」「家族の協力があったから」「勤務継続できる職場環境・育児環境だったから」など、環境の問題ではなく自分の意思で育児休暇を取得しなかった理由も一定数みられました。
日本産婦人科医会の発表する「男性医師の育休取得率について」によると、2016年までに子どもが生まれた男性医師の育休取得率は3.5%でした。しかし、2022年の同調査では21.6%まで上がっています。
また、厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」によると、2022年の男性の育休取得率は17.13%でした。このことから、男性医師の育休取得率は全体に比べて高い傾向にあることがわかります。 なお、男性の育休取得率は上昇傾向にあり、同調査の2023年の結果では30.1%の男性が育休を取得しています。
医師と一般企業の社員は、育児休業の取得率に違いはあるのでしょうか?
上記と同年となる2016年の社員・職員の育児休暇取得率は、厚生労働省「平成 29年度雇用均等基本調査」によると女性は83.2%、男性は5.14%でした。
2016年時点では、医師の育児休暇の取得率は男女ともに一般企業社員・職員より低いことがわかります。
令和4年12月21日~令和5年1月5日に厚生労働省が調査した「仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書」では、育児休暇制度を利用した女性社員・職員は91.7%、男性の場合は13.6%でした。
前述のとおり、2022年(令和4年)の男性医師の育休取得率は21.6%なので、一般企業よりも高い傾向にあります。
出産に伴う休暇制度は、産前から産後まで複数あります。
この章では、医師が取得できる産休・育休の制度として以下の6種類を紹介します。
妊娠期間中から産後1年以内の間は、妊婦健診を受けるための休暇やつわりによる休暇、勤務時間の短縮などを病院に申請することができます。これは、男女雇用機会均等法により、妊産婦の女性労働者が健診や保健指導に関する申し出をした際、事業主は妊産婦が指導事項を守れるよう対応することが義務付けられているためです。 ただし、特別休暇にあたるかどうかは病院の就業規則によって異なるため、事前に確認する必要があります。
労働基準法には、女性労働者の母体を保護するための制度として産前産後休業が定められています。そのため、女性医師は産前と産後に一定期間の休暇を得ることが可能です。
ただし、産前休暇は義務ではないため、職場への申請が必要です。病院側は、女性医師から産前休暇の申請があった場合、産前6週間 (多胎妊娠の場合は14週間)の休暇を取らせる必要があります。 産後休暇に関しては、産後8週間の休暇が義務付けられているため、病院への申請は不要です。
育児・介護休業法には、原則1歳未満の子どもを養育するための制度として育児休業が定められています。そのため、男性・女性医師ともに、産後から子どもが1歳になる前日までの間、2回に分けて必要な期間の休暇を取得することが可能です。
育児休暇の取得には、休暇開始予定日の1ヶ月前までに職場への申請が必要なため注意しましょう。
雇用保険に加入している医師の場合、育児休業期間中は給料の7割弱程度の育児休業給付金が支給されます。ただし、育休中に規定の時間以上の労働をしたり、元の給料の8割以上の収入を得ていたりする場合、育児休業給付金は支給されません。
また、以下の要件を満たす場合、子どもが1歳6ヶ月に達するまで育児休暇の延長を申請することができます。
期間内に上記の要件が解消されない場合は、2歳になる前日まで再延長することも可能です。育児休暇期間の延長・再延長は、それぞれ延長開始予定日の2週間前までに申請する必要がありますので、注意しましょう。
「改正育児・介護休業法」によって、2022年10月から産後パパ育休という新たな育休制度が施行されています。この制度は正式名称を「出生時育児休業」であり、産後8週間後までに父親が4週間分の育児休業を取得できるというものです。分割取得が可能であり、期間内で最大2回に分けて育休を取得することができます。 この育休制度は、養子養育をする女性も対象です。非正規雇用の方は、育児休業の終了日が労働契約期間内であれば取得できます。育児休業中に契約が満了してしまう場合は取得できないので、気をつけましょう。
パパ・ママ育休プラスとは、夫婦で育休を取得した場合、子どもが1歳2ヶ月になるまで育休を取得できるという制度です。ただし、この制度を利用するには以下の要件に該当している必要があります。
なお、この制度は、育児休業の対象となる子どもの年齢が1歳未満から1歳2ヶ月未満に延長されるというものであり、親一人当たりが育休を取得できる最大日数は産後育休を含め1年間のまま変わりません。
医師国保に加入している場合、出産後14日以内に医師国保に申請することで、出産育児一時金として50万円が支給されます。(※産科医療補償制度に未加入の医療機関などで出産した場合は48万8千円)
しかし、社会保険のように出産手当金の支給や保険料の免除はありません。
医師が育児をする際には、以下の悩みを抱えやすいです。
それぞれの悩みについて解説します。
出産・育児に伴い、医師が抱える悩みとして多いのはキャリア形成やスキルアップへの影響です。
組織体制が整っている病院に勤めていれば、産休・育休前のポジションを確保したまま復帰できます。しかし、臨床現場を長期間離れることで、感覚が鈍ったり技術が衰えたり、同僚に遅れをとっている感覚を覚えたりすることに対して不安を抱く方が多いようです。
家事・育児と仕事の両立に関しては、とくに20〜40代の女性医師が抱えやすい悩みです。不規則な生活リズムのなかで子どもの生活リズムに合わせて家事・育児をおこなったり、子どもの体調不良によって早退したりなど、体力的な負担や職場・同僚に迷惑をかけてしまうという精神的な負担が原因でしょう。
実際、子どものいる女性医師のなかには、30〜39歳のキャリア形成に重要な時期に家庭との両立の難しさから離職してしまう人が多くみられます。
女性医師がキャリアを積み続けるには、夫の協力や家族・親族によるサポート、職場の理解を得るなど、家庭と仕事を両立しやすい体制を整えることが重要です。
子育てしながら働く場合、一日のほとんどは家事・育児と仕事で終わってしまい、休日も家庭を優先することが多いため、プライベートの時間をとることが難しいです。寝る時間を削って勉強や娯楽に充てる医師も多くいるでしょう。
夫婦で役割分担ができていたり、家族や親族からサポートが得られていたりする環境でないとプライベートの時間を確保することは難しいでしょう。
医師が子育てと仕事を両立させるためのポイントとして、下記の2つを紹介します。
医師の勤務環境は診療科によって左右されやすく、なかには当直やオンコールのない診療科や時短勤務可能な診療科もあります。子育てと仕事を両立させるには、このようなワークライフバランスを維持しやすい診療科やクリニックを選びましょう。
医師がワークライフバランスを保つコツや、女性医師が家事・育児を両立しながらキャリアを維持する働き方や収入を確保する方法などを知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
>>医師がワークライフバランスを保つには?現状や課題、できることは
>>女医ママ必見!家庭と仕事を両立しつつ年収をキープする柔軟な働き方
子育てと仕事を両立するには、子どものいる医師に寄り添ってくれる職場選びも重要です。とくに、美容医療業界のように女性の多い職場は、女性のライフステージの変化に適したサポート体制を整えていたり、同僚からの理解が得られやすかったりするためおすすめです。当直やオンコールもなく、時間を管理しやすい労働環境なため、上記のワークライフバランスを保ちやすいというポイントも押さえています。
以下の記事では、美容医療クリニックの職場環境や業務の流れ、キャリアの築き方などについて解説しているので、ぜひ参考にしてください。
>>美容医療クリニックの職場環境:一般病院との違いとメリット
>>美容外科医に向いている人の特性とは?美容医療の医師になるための教育・研修・キャリアの築き方
今回は、医師が取得できる産休・育休の種類や取得率、医師の子育てに関する悩みなどについてまとめました。
近年の日本では、男性の育児参画率上昇を目指して新たな育休制度を設けたり、ライフワークバランスを保ちやすい体制や制度を整えたりなど、女性が育児と仕事を両立できる環境づくりが進んでいます。このような制度を利用したり、夫や親族と協力しあったりして、医師のキャリアを維持しつつ子育てと仕事を両立させましょう。
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